行政書士の松井です。
先日、HPからお問い合わせ頂いた内容で、少しイレギュラーな案件がありました。
麻雀店の申請をご希望の方だったのですが、営業所の近くに「学校ではないけど学校らしきもの」があり、許可がおりるかわからないと。
何人かの行政書士に問い合わせたそうなのですが、誰も「わからないので引き受けられない」と言われたそうです。
弊所の方で調査してみると、これがけっこうややこしかったので、今回はそのことについて書きたいと思います。
風営法の保全対象施設かどうかの判断
ご相談頂いた場所を調査してみると、たしかに「学校かどうか微妙なもの」が存在していたんですね。
保全対象施設というのは、営業所から一定の距離内にあると風俗営業許可がおりないような施設であり、学校や保育園、病院などが該当します。
具体的な距離や施設や各都道府県の条例によって異なりますが、だいたい似たような施設が保全対象施設として定められていることが多いです。
大阪府の場合はコチラの記事にある「保全対象施設とは」を参考にして頂ければと思います。
ちなみに、今回のご相談は京都府だったのですが、京都府条例でも学校は保全対象施設として定められています。
そして、具体的に何が「学校」なのかは、学校教育法第一条に定められています。
この法律で、学校とは、幼稚園、小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校、大学及び高等専門学校とする。
いわゆる“一条校”と呼ばれるもの。
一見、特段判断に迷うことはないように見えますよね。
「大阪市立〇〇小学校」とか「〇〇幼稚園」という看板があって、校舎も運動場も存在する。
そんな施設であれば一瞬で保全対象施設だと判断できますし、見落とすこともないでしょう。
ただ、最近ではシンプルに「〇〇学校」ではない施設も存在するんですね。
もっとも分かりやすい例が、大学のサテライトキャンパスとかエクステンションセンターみたいな名前がつけられている施設。
大学本体とは別の場所で、都心部のビルの一角に入っていることがあります。
実は、このような施設も保全対象施設だと判断されることがありますので要注意なんですね。
ビルのワンフロアにひっそり入ってると、ほんと見落としそうになるので危険です。
そして、今回の相談はもっと微妙な施設だったんです。
通信制学校のサポートセンターは保全対象施設なのか?
前提として、通信制学校自体は紛れもなく一条校です。
ただ、今回遭遇したのは通信制学校が運営するサポートセンターというような施設。
要は、通信制学校であっても生徒と直接面談して進路相談に乗ったり、質問を受けるなど学習指導をしたりする場所みたいです。
そういう施設なので、一般的な学校のような門構えではなく、ビルのワンフロアに入っています。
容易に判断できる事案ではないので、管轄の署に相談に行ったところ、まず言われたことが
「分からない」
「学校関係を所管する行政庁に確認してくれ」
と。
まぁ予想してましたよ。
ただ、こちらの言い分としてはこうです。
「この通信制学校が一条校に該当するか否かの確認であれば、教育関係の行政庁に聞いてくれというのは分かる。しかし、今回はその一条校が運営するサポートセンターなるものまで保全対象施設としてみなすのかどうかの質問なので、ご回答頂きたい。」
担当者からすると、よくもまぁこんなクソややこしい案件持ってきたなという感じでしょうね笑
それでも署の回答は
「申請してから調査をするので、現時点では分からない」
と。
それでも
「保全対象施設の定義は京都府の風営法条例で定められている。そして、こういう微妙な施設を保全対象施設とみなすか否かは、京都府公安委員会が判断を下すもの。その京都府公安委員会に分からないと言われても困る。」
と粘ったところ、
「一度府警本部と協議をして回答します。」
と。
どういう回答が来るのか楽しみにしていました。
保全対象施設かどうかの判断は曖昧でケースバイケース
5日ほどが経過し、署から連絡がありました。
結論から言うと、やはり現時点では分からない、と。
そして、
「保全対象施設かどうかは、その施設の営業内容を検討して個別具体的に判断している。」
「過去の事例としては、こういった施設が保全対象施設として判断された例もあるが、そうでなかった場合もある。」
「その都度、その施設の内容を調査し、関係行政庁と協議しながら最終的には公安委員会が結論を出す。」
とのこと。
署に相談したときから発展的な回答は得られませんでしたが、それでも保全対象施設かどうかの判断は相当ケースバイケースに判断しているのだというニュアンスは伝わりました。
まぁ、風営法や風営法条例が制定されたときは、こんな微妙な施設ができるなんて想定されていなかったでしょうし、個別の判断になるのは仕方ないですね…。
今回の施設は、その内容を鑑みると保全対象施設と認定される可能性が高い判断し、申請は見送って頂くことになりました。
見切り発車で許可が出なかったら膨大な経済的リスクが生じてしまいますからね。
風俗営業許可を取った後、近くに保全対象施設ができてる場合
このような、比較的新しくできたような保全対象施設やそれらしきもののすぐ近くに風俗営業店が存在する場合があります。
考えられることは2つ。
- 無許可営業
- 既得権で営業している
無許可営業のケースはさておき、既得権で営業しているというは、許可を取った当時は保全対象施設がなかったという意味です。
せっかく許可を取ったのに、嫌がらせのように後から近所に保全対象施設ができて、「はい、今日から許可取り消しね」なんて言われたらたまったもんじゃないですよね。
ですので、実際は許可後に保全対象施設ができた場合でも、既得権としてそのまま営業を続けることができます。
ただし、保全対象施設ができた後に、その店を誰から買い取るなどで別の人が許可申請しても許可はおりません。
注意
営業を止めずに別の人が許可を取る方法はありますが、あくまでも「新規申請して許可を取り直す」ということになります。
では、どうするか?
この場合、そのお店が法人名義で許可を取っている場合、店を売買できる望みが残っています。
許可を取り直すのではなく、合併や分割といった、いわゆるM&Aをするんですね。
風営法には「合併承認申請」や「分割承認申請」といった法人売買の手続が定められており、これをすると基本的に営業権がそのまま承継されます。
したがって、この承認申請が通れば、別の法人が買い取った後も、既得権として引き続き営業できるわけです。
逆に、個人名義で許可を取っている場合はどうすることもできません。
その保全対象施設がなくなったり移転することを願うしかないんですよ。
ちなみに、合併や分割手続でなく、法人ごと買い取ってしまうという場合は、合併承認申請等は発生しません。
役員変更手続だけで済むというシンプルな段取りになります(あくまで許可の部分に関しては)。
まとめ
今回は、保全対象施設かどうかの判断ができない、「保全対象施設らしきもの」についてのお話でした。
多様性の時代ですので、これからも行政書士泣かせの判断に迷う施設がどんどん出てきそうな予感がしています。
今回のケースのような「関係行政庁と協議して個別に判断する」というレベルの微妙な施設が近くにある場合、その物件の契約は見送ることをオススメします。
契約しないことには許可申請も出せませんので、リスクが大きすぎますからね。
また、法人名義で許可があれば、許可後に保全対象施設ができた場合でも営業権を継承できる手段があるということもお伝えしました。
お店を買い取りたいという場合も、一度ご相談頂ければと思います。
以上、ご参考になれば幸いです。