
行政書士の松井です。
気づけば前回の更新から恐ろしい程期間が空いてしまいました…。
ご依頼頂いた案件に全力でフォーカスすることが信条なので、HPの更新はつい後手になってしまい、事業者としてはダメダメですね(~_~;)
そうこうしている間に風営法が改正されました。
2025年6月と11月、2回に分けて改正され、その内容的にも社会から非常に注目を浴びるトピックとなりました。
そこで今回は、2025年の風営法改正について、できるだけわかりやすく、詳細に解説し、業界ごとの影響についても考えていきたいと思います。
2025年風営法改正とは?――まず押さえる全体像と背景

2025年の風営法改正は、単なる規制強化ではありません。
これまで「業界慣行」「グレーゾーン」として黙認されてきた営業手法を、明確に“違法”と定義した転換点です。
私は風営法専門の行政書士として、キャバクラ・ラウンジ、ホストクラブ、アミューズメントカジノ、麻雀店、パチンコ店、ガールズバー、デリヘル・メンズエステ等の許可・届出・是正対応・警察対応に多数携わってきましたが、今回の改正は性質がまったく異なります。
結論から言えば、
「今までと同じ感覚で営業を続けている店舗ほど、真っ先に危険になる改正」です。
今回の改正の背景には、表面的なニュースだけでは見えてこない、現場レベルの深刻な問題があります。
売掛金を原因とした高額請求・強要トラブルの常態化
悪質ホストクラブに関するニュースで話題になったのが、売掛金を起点とするトラブルです。
- 数十万円から数百万円に膨らむ売掛
- 「払えないなら体で返せ」「働いて返せ」といった事実上の強要
- 店舗側は「従業員が勝手にやった」と責任を否定
警察や行政の立場から見れば、「営業行為を装った搾取」にしか映りません。
実際、私の元に相談が来るケースでも、「売掛が原因で警察沙汰になり、初めて違反に気づいた」という事業者は後を絶ちません。
色恋営業による精神的支配・経済的搾取
色恋営業そのものは、長年この業界に存在してきました。
しかし問題視されたのは「恋愛感情を利用すること」ではなく、それが営業の中核になり、金銭を引き出す手段として常態化していた点です。
- 恋人関係にあると誤信させる
- 私的交際を匂わせる
- 「自分のために使ってほしい」と心理的に追い込む
これらは、もはや接待ではなく精神的拘束です。
警察庁が問題視したのは、「本人の自由意思による消費」と言えない状況が、構造的に作られていた点にあります。
スカウト組織を介した違法営業の常態化
実務の現場では、スカウトバックは「みんなやっている」「業界では普通」という扱いでした。
しかし実態は、次のような不透明な金の流れを生みやすい構造です。
- 暴力団・半グレと接点を持つスカウト組織
- 客・従業員・店舗の三重構造による不透明な金の流れ
- 表に出ない紹介料・利益供与
行政としては、「反社会的勢力の温床になりうる構造」を放置できなかったのです。
今回の改正で、名目や形式を問わずスカウトバックが問題視されるようになったのは、偶然ではありません。
無許可営業の罰則強化、欠格事由の拡大
無許可で風俗営業を行った場合の罰則が強化されました。
これまでは200万円以下の罰金・2年以下の拘禁刑だったのが、1000万円以下の罰金・5年以下の拘禁刑と非常に重くなっています。
さらに法人の両罰規定に関しては3億円まで拡大しています。
これは、仕入れた酒を10倍の金額で販売するホストクラブの売上額に対しての罰則が緩すぎるのではないか?という声から改正につながったとされています。
また、欠格事由が拡大されています。
欠格事由というのは、「こんな人が風俗営業許可を申請しても許可はおりません」というもので、その内容が条文に列挙されています。
今回の改正で、関連会社に欠格事由に該当するものがある場合は許可がおりないという新たな視点で要件が厳しくなっています(これは法人名義での申請が前提です)。
施行日はいつから?

まず、2025年6月28日から以下の内容が施行されました。
- 色恋営業に対する規制
- スカウトバックの禁止
- 無許可営業・名義貸しの罰則強化
そして、2025年11月28日からはさらに以下が施行されました。
- 欠格事由・不適格者規制の一部強化
- 経営関与者への規制拡大
これから許可を取る事業者にとっては欠格事由・不適格者規制の範囲拡大が、既に営業している事業者にとっては無許可営業・名義貸しの罰則強化が注目ポイントになるかと思います
2025風営法改正①接待飲食営業に係る遵守事項・禁止行為の追加

接待飲食店営業とは、「設備を設けて客の接待をして客に遊興又は飲食をさせる営業」を意味し、具体的にはホストクラブやキャバクラ・ラウンジ・コンカフェ、ガールズバーが該当します。
2025年風営法改正の中でも、接待飲食営業に関する規制強化は、実際の店舗運営への影響が極めて大きい改正項目です。
具体的には以下の営業行為について、条文上、明確に「遵守事項」および「禁止行為」として整理されました。
- 虚偽の料金説明
- 色恋営業
- 客が注文していない飲食等の提供
- 威迫による支払いの要求
- 買春・性風俗店での勤務やAV出演等の要求
現場感覚としては、警察・行政がこれまで“見逃してきた領域に、正式に踏み込んだ改正”と理解するのが適切です。
【遵守事項】虚偽の料金説明は違反!具体的に何が色恋営業になる?
以下は、接待飲食営業を営む者が遵守しなければならない事項として、風営法第18条の3に新たに明文化された内容です。
条文では「客の正常な判断を著しく阻害する行為の規制」とされています。
■ 料金に関する虚偽説明の禁止
料金について、事実に相違する説明を行う行為は明確な遵守事項違反とされました。
第十七条に規定する料金について、事実に相違する説明をし、又は客を誤認させるような説明をすること。
これは、意図的な虚偽に限られず、誤解を生じさせる説明や不十分な説明も含まれます。
虚偽の説明に関しては文言のとおりですが、「客を誤認させるような説明」とは以下のような例も含まれます。
客:「今日は1万円しか手持ちがなくて…」
ホスト:「それで全然大丈夫だよ!飲もう!」
会計時
黒服:「お会計8万円になります」
客:「え…」
このような場合、1万円の範囲でのみ飲食等を提供すると客に誤った認識を与える説明をしたとみなされるわけです。
判断基準は常に“客が正確に理解できたか”であり、店舗側の主観はほとんど考慮されません。
■ 客の恋愛感情等につけ込んだ飲食等の要求(いわゆる色恋営業)
客が接客従業者に対して恋愛感情等を抱いていることを知りながら、これに乗じ、一定の行為によって客を困惑させ、その結果として飲食等をさせる行為が、明確に問題とされました。
客が、接客従業者に対して恋愛感情その他の好意の感情を抱き、かつ、当該接客従業者も当該客に対して同様の感情を抱いているものと誤信していることを知りながら、これに乗じ、次に掲げる行為により当該客を困惑させ、それによつて遊興又は飲食をさせること
この「恋愛感情その他の好意の感情」とは、好きな気持ち、親愛感のことを意味し、恋愛感情のほかに「憧れ」の感情も含まれるとされています。
また、「同様の感情」について、仮に客がホストに対してもっている「恋愛感情その他の行為の感情」と同一である必要はなく、客の感情に相応する程度の感情をホストも抱いていると客が誤信していれば該当します。
これにより例えば「客は自分のことを恋愛対象としてみていたかもしれないが、自分は友人として好きだと言っただけ」といったような言い訳が通用しないと思われます。
また、ホストが「自分はその客に対して本当に好意の感情があったので、誤信させたわけではない」と主張しても、そのホストが他の客に対しても同様に好意の感情があると思わせるような言動をしていた場合、色恋営業を行っていたと推認されます。
色恋営業とされる「一定の行為」に該当する具体例
- 遊興又は飲食をしなければ、接客従業者との関係が破綻すると告げる行為
- 接客従業者が降格・配置転換などの業務上の不利益を受けないためには、客が遊興又は飲食をすることが必要不可欠であると告げる行為
降格・配置転換などの業務上の不利益には、店やグループ内での序列の降格や遠隔地への左遷のほか、減給や報酬の減額等が該当します。
客が恋愛関係にある、または特別な関係にあると誤信している状況を営業に利用したかどうかが判断基準となります。
■ 注文していない飲食等の提供による困惑
客が注文等をする前に、飲食等の全部または一部を提供し、断りづらい状況を作ったうえで支払わせる行為も、客を困惑させる行為として明確に位置付けられました。
これは、客の判断の自由を奪い、「仕方なく支払わせる」構造を問題視したものです。
客が注文その他の遊興又は飲食の提供を受ける旨の意思表示をする前に遊興又は飲食の全部又は一部を提供することにより、当該客を困惑させ、それによつて当該遊興をさせ、若しくはしたものとさせ、又は当該飲食をさせること。
「遊興…の全部又は一部提供」の例として、客が注文する前にシャンパンコールを実施し終えることにより客がシャンパンを入れることを了承したような空気にする、客が注文する前にシャンパンタワーを組み上げて歓楽的雰囲気を醸し出す等が該当します。
また「飲食の全部又は一部提供」の例として、客に飲酒をさせるために勝手にシャンパンボトルを開栓したり、フルーツ盛り等の料理を提供すること等で、客に注文を渋々応じさせること等が該当します。
要するに、客からの明確なオーダーがない状態で強引にサービスを一部でも提供することで、客を困惑させ断り辛い状況にすることを規制しているわけです。
【禁止行為】強引な注文や支払要求はNG!性風俗や売春、AV出演要求もアウト!
以下は遵守事項とは異なり、明確な刑事罰の対象となる禁止行為です。
違反した場合、6か月以下の拘禁刑または100万円以下の罰金、もしくはその併科が課せられます。
■ 威迫による注文・料金支払の強要
客に注文をさせ、または料金の支払等をさせる目的で、客を威迫して困惑させる行為が明確に禁止されています。
客に注文等をさせ、又は当該営業に係る料金の支払その他の財産上の給付若しくは財産の預託若しくはこれらに充てるために行われた金銭の借入れに係る債務の弁済をさせる目的で、当該客を威迫して困惑させること。
- 売掛金、立替え、前入金
- 将来の来店時に発生する料金の支払
- 違約金等の名目による金銭の交付
- 応援する接客従業者に対する贈与
「財産の預託」はいわゆる前入金(将来飲食等をした際の料金の支払に充当するという合意のみがなされている場合等における支払い)が該当します。
■ 威迫や誘惑による料金の支払等のための売春、性風俗店勤務、AV出演等の要求
客に対し、威迫または誘惑によって、料金の支払等のために以下の行為により金銭を得ることを要求する行為も、厳しく禁止されています。
- 売春(海外売春を含む)
- 性風俗店勤務
- AV出演
これらを示唆・要求する行為は、接待飲食営業の枠を超えた極めて悪質な行為として評価され、刑事責任に直結します。
この場合の「威迫」とは、威迫による注文・料金支払の強要と同様に、人を畏怖させるまでには至らないものの、言語・動作・態度によって気勢を示し、相手に不安や困惑を生じさせる行為をいいます。
また「誘惑」とは、甘い言葉で客の判断を誤らせることをいい、例えば
・ホストとして成功したら結婚したい。そのために売上に貢献して欲しい
・ソープランドで働いて来店を増やしてほしい。そうしたら一緒に住もう
上記のような言動が該当します。
2025風営法改正②性風俗店によるスカウトバックの禁止(罰則あり)

2025年の風営法改正で、一定の性風俗関連特殊営業(店舗型ヘルス、ソープランド、デリヘル)に対して新たに導入された重要規制のひとつが、「スカウトバック(紹介料)の禁止」です。
第二条第六項第一号又は第二号の営業を営む者は、営業所で異性の客に接触する役務を提供する業務に従事しようとする者の紹介を受けた場合において、当該紹介をした者又は第三者に対し、当該紹介の対価として金銭その他の財産上の利益を提供し、又は第三者をして提供させてはならない。
これに違反すると、六月以下の拘禁刑若しくは百万円以下の罰金又は併科の罰則になります。
スカウトバックとは?
スカウトバックとは、性風俗店が第三者からキャストの紹介を受け、その対価として金銭その他財産上の利益を提供することです。
これまで多くの性風俗店がスカウトグループから業務に従事するキャストの紹介を受け、多額の紹介料を支払っているという現実がありました。
ホストクラブでの支払いができない女性に対して、ホストがスカウトを通じて性風俗店を紹介し、そこでお金を稼いで来店することを要求する等、搾取し続けるといった悪質な事例が後を絶たず、社会的にも大きな問題を引き起こしました。
そういったことをなくすため、性風俗店に対してスカウトバックを支払うという行為を規制することになりました。
スカウトバックは名目・支払い方法に関係なく禁止される
スカウトバックとは違う名目で支払えばいいのかと言うとそうではなく、法律はそこも先回りして想定しています。
紹介料、顧問料その他名目を問わず、営業所で異性の客に接触する役務を提供する業務に従事しようとする特定の者に係る紹介の対価として提供されたものであることを明らかにすれば、スカウトバックと認定されると明文化されました。
また、第三者を介して支払ったとしても、実施質的に紹介料を支払っているのであればアウトになります。
さらに、1回目に提供される金銭のみならず、2回目以降に提供される金銭も含まれるとされています。
例えば、紹介料としての一時金だけでなく、「紹介先の性風俗店での売上の〇%を毎月支払う」といった契約の場合も当然にスカウトバックとみなされることになります。
なぜ店舗側が規制されるのか|職安法との関係と“資金源”の遮断
もう一つ、押さえておくべきポイントがあります。
スカウトが女性を性風俗店に紹介する行為は、そもそも職業安定法で規制され得ます。
それにもかかわらず、今回の改正が性風俗店側を規制対象にした理由は明確です。
実務の世界では、スカウト行為そのものを取り締まる以上に、スカウト行為を成立させている「カネの流れ」を断つことが効果的だからです。
店舗が紹介料を支払えなくなれば、スカウト側のビジネスモデルは成り立ちにくくなります。
今回の改正は、まさにこの資金源の遮断を狙った制度設計だといえます。
現場で注意すべき点|「第三者払い」「名目変更」は通用しない
実務上、摘発・立入・捜査時に想定される性風俗店側の言い分として、「うちは直接払っていない」「外注先が勝手に払った」といったケースです。
しかし今回の規定は、前述のとおり第三者を介した提供も明示的に禁止しています。
- 外注業者名義で“紹介対価”を支払う
- 知人・別法人を介して金銭提供する
- 広告費等の名目に付け替える
これらは、形式上の整形にすぎず、実態が紹介対価であれば違反認定されるリスクが高い運用です。
改正後は、「スカウトを使う/使わない」だけでなく、「採用導線全体」を見直す必要があります。
2025風営法改正③無許可営業等に対する罰則の強化

2025年風営法改正において、実務上最もインパクトが大きい改正の一つが、無許可営業等に対する罰則の大幅な引き上げです。
これまで無許可営業は「行政処分や軽い刑罰で済む」という誤った認識を持たれがちでしたが、今回の改正により、刑事責任として明確に“重罪化”されています。
行政指導の延長線ではなく、刑事事件として立件され得る行為であることを、経営者は強く認識する必要があります。
無許可営業・禁止区域営業に対する刑罰の強化
改正の対象となるのは、以下のような行為です。
- 風俗営業の無許可営業
- 店舗型性風俗特殊営業(ソープランド、店舗型ヘルス、ホテヘル、ストリップ)を禁止区域で営業する行為
これらの行為に対する法定刑は、次のとおり大幅に引き上げられました。
- 拘禁刑:2年以下 → 5年以下
- 罰金:200万円以下 → 1,000万円以下
実務上、この水準の刑罰は、「うっかり」「知らなかった」で済まされるレベルを完全に超えています。
とくに、営業形態が風俗営業に該当するかどうかを曖昧にしたまま営業している店舗は、非常に高いリスクを抱えているといえます。
この罰則における店舗型ヘルスには、性的サービスを含んだメンズエステ営業、通称メンエスも該当します。
マンションの一室でメンエスを営業してきた事業者も多いのが現実かと思いますが、今回の改正を期にデリヘル形式に移行したいという相談が非常に増えています。
賃貸借契約としても違反しているケースが多いので、近隣からの通報等により発覚・摘発されるリスクについて今一度考える必要がありそうです。
両罰規定の強化|法人にも最大3億円の罰金
今回の改正で、もう一つ見逃してはならないのが、
両罰規定における法人罰則の大幅な強化です。
風俗営業の無許可営業や虚偽申請等について、これまで法人に科される罰金の上限は200万円以下でした。
しかし改正後は、最大3億円以下の罰金に引き上げられています。
この改正の背景として、ホストクラブのような事業における売上や利益に対して、改正前の200万円という罰金額はあまりに見合っていないという声が上がったことがあります。
実際、この程度の罰則では無許可営業に対する抑止力が働き辛かったことは事実だと感じています。
重要ポイント:
罰則の対象は、法人の代表者等「個人」だけではなく、法人そのものにも及びます。
つまり、「現場が勝手にやった」「従業員の問題だった」という弁解は通用しません。
経営判断として無許可営業や虚偽申請が行われていれば、法人としての存続自体が危うくなる水準の制裁が科され得ます。
実務上の注意点|“グレー運営”はもはや通用しない
実際の現場では、
「風営法に該当しないと思っていた」
「以前は問題にならなかった」
という理由で無許可状態が放置されているケースが少なくありません。
しかし今回の改正により、無許可営業は“割に合わないリスク”を超えた行為になりました。
刑事責任・高額罰金・行政処分が同時に現実化する可能性があります。
経営者として重要なのは、営業開始前・営業継続前に、必ず法的な該当性を確認することです。
無許可状態で営業を続けることは、もはや事業戦略として成立しないといえるでしょう。
2025風営法改正④風俗営業からの不適格者の排除(欠格事由の拡大)

2025年風営法改正において、制度設計の根幹ともいえるのが、「風俗営業に関与させてはならない者を、制度上明確に排除する」という考え方です。
いわゆる欠格事由(風営許可がおりない人の条件)が拡大され、申請へのハードルが上がったと言えます。
これまでの風営法では、名義や形式を整えることで、実質的には問題のある人物・法人が営業に関与し続ける余地が残されていました。
今回の改正は、そうした形式的な抜け道を塞ぎ、実態ベースで排除する方向へ大きく舵を切ったものと評価できます。
親会社・兄弟会社・子会社が許可取消を受けた法人の排除
法人名義で申請する場合、その法人と資本等で一定の関連がある法人を密接関係法人として定義し、その密接関係法人の適格性が人許可要件(欠格事由)として追加されました。
改正後は、そのような密接関係法人が欠格事由に該当する場合、申請する法人自体が欠格事由が該当していなくても風俗営業の許可を受けることができません。
ここでいう「親会社等」には、単なる親会社だけでなく、兄弟会社・子会社といったグループ会社全体が含まれます。
実務上の重要ポイント
一つの法人が許可取消処分を受けた場合、その影響はグループ全体に波及する可能性があります。
実務の現場では、「別法人だから問題ない」「代表者を変えれば大丈夫」といった認識がいまだに見受けられますが、今回の改正により、こうした発想は明確に否定されました。
行政は、法人格の違いではなく、実質的な支配関係・経営関与の実態を重視して判断します。
密接関係法人の具体的な要件
親会社等
- 議決権の過半数を所有している法人
- 申請法人が持分会社である場合において資本金の二分の一を超える額を出資している法人
- 出資、人事、資金、技術、取引等において緊密な関係があることにより、申請法人の事業の方針の決定に関して上記と同等以上の支配的な影響力を有すると認められる者
兄弟会社等
- 親会社等がその議決権の過半数を所有している株式会社
- 親会社等がその資本金の二分の一を超える額を出資している持分会社
- 出資、人事、資金、技術、取引等において緊密な関係があることにより、申請法人の事業の方針の決定に関して上記と同等以上の支配的な影響力を有すると認められる者
子会社等
- 申請する法人がその議決権の過半数を所有している株式会社
- 申請する法人がその資本金の二分の一を超える額を出資している持分会社
- 出資、人事、資金、技術、取引等において緊密な関係があることにより、その事業の方針の決定に関する申請法人の支配的な影響力が上記と同等以上と認められる者
立入調査後の許可証返納(いわゆる「処分逃れ」)の排除
次に重要なのが、警察による立入調査後に許可証を返納する行為への対応です。
欠格事由に該当することになり、風俗営業の許可を受けることができなくなりました。
暴力的不法行為等を行うおそれがある者の排除
今回の改正では、集団的に、又は常習的に暴力的不法行為等を行うおそれがある者が、事業活動に支配的な影響力を有する場合も、風俗営業から排除すべき対象として明確に位置付けられました。
改正前も「集団的に、又は常習的に暴力的不法行為等を行うおそれがある者」本人は欠格事由に該当していましたが、密接関係法人の規定と同様に、そのような人物が実質的に経営を支配していると認められるような場合は風俗営業許可を受けれません。
- 資金提供者として経営に強い影響力を持つ場合
- 人事・営業方針に実質的な指示を出している場合
- 裏のオーナー、相談役として関与している場合
これらはいずれも、「実質的に事業活動を支配している者」として判断される可能性があります。
ミナミや渋谷を歩いてると、こんな風景をよく見ますよね。
実は、これについても警察庁が規制の目を向けるようになったんです。
2025年の風営法改正では、主にホストクラブ等の接待飲食営業(以下、ホストクラブ等)をめぐる悪質な営業行為(料金トラブル等)を抑止する観点から、広告・宣伝(広告物を含む)についても、法第16条の規制対象となる類型が明確化されました。
第十六条 風俗営業者は、その営業につき、営業所周辺における清浄な風俗環境を害するおそれのある方法で広告又は宣伝をしてはならない。
要するに、
- ホスト同士で過度な競争意識を持たせる
- 客に高額を使う意欲をそおそらせる
- ホスト自身が営業成績のためなら何でもやるという意識を醸成させる
上記を防ぐために歓楽的・享楽的雰囲気を過度に醸し出す広告を規制しましょうということです。
つまり、宣伝トラックや屋外に設置された看板やビジョンをはじめ、営業所内に設置された広告物に関しても違反になる場合があり、後述のとおり、かなり具体的な文言で規制方法が示されました。
正直、最初に通達を読んだときは「ここまで具体的な文言で出すのか」と半ば感心しましたね。
警察庁も本気だなと。
つまり、宣伝トラックや屋外ビジョンだけでなく、営業所の中にもこのような広告物を設置してはいけないということですね。
業界ごとの影響と今後の対策について

ここまで改正風営法の内容について解説してきました。
ここからは、それらを踏まえて業界ごとにどのような影響があるのか?どのように動いていけばいいのか?について書いていきます。
ホストクラブ、メンズコンカフェ
ホストクラブやメンコン、メン地下等は、今回の法改正に至った主な原因であり、警察から最も目をつけられている業種です。
中には健全に営業してきたお店もあるのと思うのですが、やはり業界の多くがこれまでやってきたことのツケが回ってきたという気がします。
今後については、とにかくこの記事に記載したような違法行為を行わないことに尽きます。
ただ、怖いのが客側が警察に対してどのような供述をするのかわからず、店側と話が食い違ったとしても今のご時世的に客側の言い分が通りやすくなるかもしれないという点です。
色恋営業や注文・支払いの強要に関して、ホスト側が言い逃れできないような法律の文言になっています。
話がずれますが、例えば不同意性交罪に関して被害者側の意見が強すぎると言われたりもしていますが、風営法でも同じようなものを感じます。
そもそも客の同意なしに勝手に遊興や飲食を提供するというのは論外です。
そうではない場合前提ですが、それでも後で「無理やり注文させられた」と言われてしまうのはリスキーです。
そうならないためにも、客の意思で明確にオーダーを受けたという証拠をできる限り残していくことを意識した方がいいかもしれません。
グループで多店舗展開しているところは、例え法人を分けていたとしても、それらの法人が密接関係法人とみなされ、1つの店舗が欠格事由に該当することになれば、全ての店舗の許可が一気にとびます。
キャバクラ・ラウンジ
法的にはキャバクラ・ラウンジとホストクラブは同じ位置づけです。
風営1号許可で営業する接待飲食店となります。
ただ、キャバ嬢の宣伝トラックってあんまり見たことないのと、キャバクラの支払いのためにおじさんが性風俗店に売り飛ばされるって基本的にないですよね(というかまずない)。
同じ接待飲食店でも今回の法改正は明らかにホストクラブを対象としたものなので、キャバクラやラウンジの営業にはそこまで影響はないのかなと思います。
ただ、たまにロッカー戦(イベント期間の上位〇名までがロッカーを確保できるみたいなの)と称したイベントでランキングを全面に押し出して過度な競争心をキャストにもたせ、客に来店をあおるという行為をみかけられます。
このような行為は広告・宣伝の規制の対象となる可能性がありますので、注意が必要です。
色恋営業に関してもキャバクラだってホストクラブと同様にそれなりにあると思うのですが、前述のとおりおじさんが性風俗店に売り飛ばされることが想定しにくいので、社会問題化はしていない。
とはいえ、火種はけっこうあると思うんですよね。
例えば、一時期、某有名キャバクラグループの売れっ子嬢が「〇〇(超高級シャンパン)じゃなかったらいらない!」と吐き捨て、不機嫌そうに席を立とうする映像がSNSで出回りました。
これ、もしネタではなくガチだとしたら、「遊興又は飲食をしなければ、接客従業者との関係が破綻すると告げる行為」に類似する色恋営業とみなされる可能性があります。
今は素人が撮った動画がSNSを通じてすぐに拡散する時代ですし、警察も意外とそういったものを見ています。
うちはホストクラブじゃないから大丈夫、と油断せずに、足元をすくわれないよう禁止行為がないか今一度社内チェックをしてみるべきタイミングかもしれません。
繰り返しますが、法的な立ち位置や禁止行為等の規制はホストクラブと同じですから。
また、ミニクラブやラウンジ等で無許可営業を行っているところは、法改正による罰則強化に注意したいところです。
そもそも許可を取れる場所なのか?建物所有者の承諾が取れるのか?等の確認をしていきましょう。
ガールズバー、コンカフェ
風営規制対象業種の中で、無許可営業が最も多い業種です。
飲食店営業許可だけ、もしくは深夜酒類提供飲食店営業で営業しているお店が多数存在します。
2025年の法改正のタイミングで無許可営業店舗への摘発が増えており、弊所もかなりの数の相談を受けています。
メンコンやメン地下と同様に、カウンター越しの接客であっても接待行為があれば風営1号許可を受ける必要があります。
改正前までは、罰金200万円といっても初犯で最大額の罰則がくることはないので支払えないことはないと思っていた方も多いと思います。
しかし、改正によって個人でも1000万円の罰金になりましたので、最大額でなくても相応の負担となります。
さらに欠格事由にも該当して5年間は許可を取れなくなりますので、今まで潜り営業していた店舗は注意が必要です。
メンエス
本当に本当に「エステ」なのであれば、風営法の対象外です。
健全なエステやマッサージは風営法の許可や届出は必要ありません。
ただ、そうではない場合、個室に客を入れておこなっている場合は店舗型性風俗とみなされます。
そうなれば、禁止地域での営業(関西全域をはじめ、多くのエリアでは店舗型性風俗の新規営業は条例で禁止されている)に該当する可能性が高く、こちらも無許可営業と同様に罰則が強化された「1000万円以下の罰金・5年以下の拘禁刑」の対象となります。
どうしても店舗型性風俗の営業がしたいのであれば、数少ない新規出店可能な地域で開業するしかありません。
もしくは、店舗型から無店舗型性風俗(デリヘル)に業態変更することです。
弊所では長期間にわたってマンションの一室でメンエスを営業してきたが、今後は無店舗型として合法的にやっていきたいという相談を数えきれないほど受けてきました。
みなさん違法営業の自覚があるため非常に気まずそうに相談に来られるのですが、うちは警察ではないので、これまでのことを咎めるといったこと一切しませんので安心してください(笑)
近隣の通報や家主との賃貸借契約違反トラブル等で問題が表面化する前に一度今後の営業方法を検討されてはいかがでしょうか。
注意
性風俗の届出を出していなくても、実態として性風俗店として営業しているのであればスカウトバック禁止規定の対象となります。
店舗型性風俗(ヘルス・ソープ等)、無店舗型性風俗(デリヘル)
店舗型性風俗を禁止区域で営業している場合を除き、基本的に2025年の風営法改正で大きな影響を受けるものではありません。
ただし、店舗型・無店舗型ともにスカウトバック禁止規定の対象になります。
法改正後、スカウトがらみでソープランドの摘発が目立っています。
一番の目的はスカウトグループの摘発かもしれませんが、その中でお金の流れを調べるあたってスカウトバックを支払っている性風俗店の存在は必ず明るみに出るので、同時に摘発されることは避けられません。
業界の慣習的にスカウトを使って質のいいキャストに入店してもらうのは長年当たり前だったと思います。
法改正されたばかりですので、その慣習がすぐに変わっていくことは難しいかもしれません。
しかし、5年後や10年後に向けて、スカウトを使わずにいいキャストに入店してもらうスキーム作りが店舗存続の要となるかもしれません。
まとめ

今回は社会的にも非常に大きな話題となった2025年の風営法改正について解説しました。
運営上の注意としては、主に色恋営業や注文の強要、性風俗店勤務やAV出演禁止等の遵守事項・禁止行為の規定。
新規許可申請注意としては欠格事由の拡大。さらには無許可営業者に対する大幅な罰則強化。
このように、事業者の状況によって異なる規制強化が図られた形です。
法律というのは常に改正されていきます。
そして、風営法絡みの営業というのは様々な規制を受け、今後も規制が増えることはあっても緩くなることは基本的には少ないでしょう。
それでも、変化に対応して対策を練り、合法的に営業し、稼ぎ続けているお店は数多くあります。
弊所は風営法専門の行政書士事務所として、これからも事業者の方の寄り添い、共に考え、心強い味方であり続けることに務めてまいります。

